Heptaは，元々は，低コスト・短期間に宇宙機のシステム工学について学生が学ぶことができるよう，山�ｱが中心となって開発したトレーニング・キットですが，現在では，衛星のことを知りたい一般の方々や，衛星開発を目指す海外の社会人の方々向けのワークショップでも用いるなど，様々な方々向けのトレーニング・キットとして使っています．

サイズは約7cm立方で，パソコンとテーブルがあればワークショップ形式で学ぶことができます．もちろん，作業台やはんだ等を用意して，基板への部品のはんだ付けからやってHeptaを作り上げることも可能です．また，ユーザー専用基板のスペースも設けてありますので，その基板については基板設計から自分えやる，ということも可能です．

Heptaの概要は以下の通りです．文章の右側の図をクリックすると，図が拡大されます．

Heptaのキットには，ハードウェアだけでなく，英語版・日本語版の学習用テキストも用意されており，その中では基板のCAD図や回路図も公開しています．また，オンボードコンピュータ用のプログラムのソースも公開しています．したがって，学びたい内容に応じて，AI&T（Assembly, Integration, and Test）のみのレベルから，詳細なプログラミング，電子基板の設計・開発まで，Heptaを使って様々なレベルのワークショップを行うことが可能です．ある程度の基礎があれば，テキストを見ながら自習することも可能かと思います．

特に，衛星工房では，これまで，低学年の学生は，電子基板の製作などの基礎的な実習のあと，すぐにCanSatプロジェクトを始めると，締切内にハードウェア開発を完了させることに注力するあまり，ややもすると，メンバーひとりひとりがシステム全体を理解しながら物事を進める部分が弱くなりかねないことがあるという問題がありました．そこで，基礎的な実習のあと，何等かのトレーニング・キットでで衛星システム，あるいは，システムというものそのものについて学んでから，それぞれが自分のやりたいことをやるという道もあるのではないかということで，Heptaが開発されました．

Heptaを使ったワークショップで最も重要視しているのは，AI&Tを通じて，衛星のアーキテクチャを理解すること，何かの機能を果たすためのシステムをつくる際にどういう道筋でその機能を持ったシステムを実現するのかを知ること，システムを構成する個々のサブシステムの役割を理解すること，それらのサブシステムを統合してシステムとして成立させる手順を理解し，デバッグの方法を知ることなど，システム開発の流れと考え方をしっかりと体得することです．

Heptaのシステムは右図の通り，6つの機能を持っており，それに対応したサブシステムから構成されています．ワークショップでは，決定したミッションからこれらの機能を導き，それに対応したサブシステムに対する要求を明示するなど，システム開発の初期に行うべきことをしっかりと理解することになります（ハードウェアをつくることばかりに気持ちが行ってしまうと，この作業があいまいになり，無駄なコンポーネントをつけてしまったり，必要なコンポーネントが抜けたり，といったことになりがちです）．

そして，各サブシステムに対する要求を満たすようなコンポーネントを考えると，例えば右図のようなものになります（Heptaではmbedを中心にシステムを組んでいます）．ワークショップの目的にもよりますが，これをさらに深く掘り下げて，どういう考え方，手順でこのコンポーネントに行きついたのか，個々の部品がどういった役割を果たしているのかといったところまでも，理解しようと思えば理解できるのが，Heptaワークショップのいいところです．実際，衛星を作るときも，各サブシステムに用いるコンポーネント，あるいは電子チップの選定の際には様々なことを考慮しますので，時間が許せば，そこまで踏み込んでHeptaを味わってみるのもいいかなと思います．

Heptaの仕様は右図の通りです．部品は特に宇宙で使用することは考えておらず，逆に，音声ICを搭載するなど，地上で使用することを前提としていますが，機能自体はCubeSatのバスと同程度のものを持っており，「宇宙で使用するなら，ここはこういうことを考えて設計変更をするでしょう」といったことも学びながら進めていけるのがHeptaのいいところです．

右図の通り，Heptaでは各ボードをピンソケットで結合し，ハーネスを無くしています．こうすることで，7cm立方という小さなサイズを実現しています．したがって，残念ながら？，超小型衛星特有の？，ハーネスの引き回しの苦労を体験することは，Heptaではできません．ただ，実際の超小型衛星でも，基本的にはこのような配線を組めれば，開発も楽でしょう．

実際，Heptaでは，各基板がサブシステムに対応していて，組み上げた状態で各サブシステムのプログラミングやデバッグができるようになっているので，一度組み上げた後に，また分解して何かをするということはほとんど必要ありません（分解を要するのは，ハーネスの問題や部品のねじ留め等に問題があった場合が多く，Heptaでは上述の通り，そもそもそのような問題は起きにくいハードウェア構成になっていますので，きちんと手順を踏んで開発していれば，分解することはそれほど必要ないかと思います．もちろん，基板に何かを取り付ける際にハンダ付けが甘かった，というようなことがないことが前提ですが）．

Heptaのキットは，右図のように収納ボックスに収納した形で使いますので，持ち運びも便利です．実際，海外の方々の研修用のワークショップでは，Heptaとテスタや精密ドライバ等の必要工具を収納ケースに入れ，テキストとともに提供していて，好評です．

これまで，ワークショップの内容は，受講者の要望に合わせて決めてきています．1日で終わるものから，2日，あるいは4日など，様々です．また，衛星工房メンバーは，半年かけて，ハンダ付けからやっています．このように，目的と時間に応じて内容を調整できるのがHeptaのいいところです．また，Heptaやテキストは，我々が実際にSEEDS，SEEDS-II，SPROUTの開発・打ち上げ・運用を通じて培ってきたノウハウをベースしてつくっていますので，キットとはいえ，重要な点は十分に学べると考えています．

余談ですが，Heptaキットの部品購入から販売・アフタケアを請け負っていただける業者さんがいらっしゃると，とても助かります（実際，現在のHeptaはそれができるレベルになりつつあると思っています）．