修士2年の角川です。

毎日午前と夜中に3回くらいずつ日本の上空に10分くらいやってくるSPROUTの運用が始まってから2ヶ月がたちました。
毎日一人で午前と夜中の運用を行っていくのは困難なので、研究室メンバー全員でシフトを組んで毎日運用を行っております。

そんな中、OBの方々が確立して来た技術の蓄積なしにはこうやって毎日SPROUTを運用することが出来ていないのだなと、日々宮崎研OBの方々の努力やそれをリードされて来た先生方の偉大さを実感しております。

といいますのも、SPROUTの運用で今当たり前に使われている9600bps,1200bpsのFMダウンリンクという技術も、宮崎研OBの佐瀬さんが実現されたそうで、この技術が確立されてなかったら(となるとそもそもSPROUTプロジェクトはキックオフすらしていなかった?)今、SPROUTの運用で当たり前に行っているFMダウンリンクが実現していなかったかもしれないと思ったからです。

前回のブログで、三田君から技術継承の研究をやっていることをご紹介頂いたので、本日は宮崎研究室-衛星開発の技術継承に関する課題点について書かせて頂こうと思います。

私は学部時代に行った人力飛行機世界記録挑戦プロジェクト失敗の経験を受け、どうすればプロジェクトの成功率を上げられるのか考えてきました。その中で対象のチームや組織において、技術や経験などの暗黙知を余すことなく次の代に繋いで行くことが、そのチームや組織でプロジェクトの成功率を向上させる一つの方法なのではと考えるようになりました。

【宮崎研衛星開発における技術継承活動のこれまで】
技術継承とは開発メンバー個人の暗黙知をいかに次の代につなげるかという問題です。
特に学生衛星開発においては世代交代によって人の入れ替わりが激しいことなどがあるので、技術継承は重要なテーマとなっています。
この課題に対して宮崎研のOBの方々が様々なアプローチを実行されて対処されてきました。例えば、形式知として、各ARISS、Cansat、SEEDSなどのプロジェクトでは報告書を整備されてきました。また、新入生教育プログラムというアプローチも行われています。
このような活動によって何年にもわたり蓄積された技術と経験を今の私たちが利用できたため、SPROUTミッションに挑戦できる環境が整えられて来たということを忘れてはならないと考えております。

【SPROUT衛星開発における技術継承課題】
SPROUTプロジェクトでは報告書を整備したり、新入生教育の中でSPROUTのノウハウを伝える活動は行っています。
しかし、私は現状の技術継承活動に危機感を感じました。
私は昨年度からSPROUTプロジェクトに参加させて頂いておりますが、その中でプロジェクトメンバーの間で"ロストテクノロジー"というワードが飛び交っています。
どういうことかといいますと簡単に言えば、担当の人しか仕様を把握していないブラックボックスシステムが既にあったり、SPROUTのシステムの中でも伝承するのが困難な技術や経験が多々あるということです。
また、システムレベルの統合、環境試験や実際の運用で検出された不具合や不整合に対する対処も記録をとってはいましたが網羅できていなかったり整理できていないのが現状です。
このままですとこれらが現開発メンバーにしかわからない暗黙知となり、担当の人がいないとわからないという状態に陥ってしまいます。
原因の1つとして、SPROUTではシステム開発の規模がcansatやSEEDSにくらべて広がり、より構成要素間(特にFMR,CW…etcといったサブシステムレベル)の相互作用が複雑になっていることが上げられると思います。
課題点は
・宮崎研衛星開発における技術継承
・SPROUTの運用における技術継承
という2つの切り口でSPROUT開発メンバーが”ロストテクノロジー”を最小化することだと思います。

【技術継承活動の甘さが将来のプロジェクトの成功率を下げる?】
技術継承活動をする側とされる側の観点があると思います。
する側という観点で書かせて頂くと、今のSPROUTプロジェクトで、もし技術継承活動が十分に行われないと、将来の宮崎研衛星開発の成功率を下げかねないと思います。
理由として、将来の宮崎研のプロジェクトがキックオフするかしないかの判断においては宮崎研に蓄積されている技術や経験が判断材料の1つとして用いられると思いますが、その技術や経験がブラックボックスで仕様が不明確であると、開発の段階で発生する不整合や運用の段階で発生する不具合に対処するのが困難になるからです。
先日のUNISEC General Meeting in 2014の「GPMを終えた団体がどのような情報を提供できるのか」というテーマで行われたパネルディスカッションでも「失敗をとりいれることが成功につながって行くのではないか」ということが言われていました。
プロジェクトを成功に導くためには失敗を隠すということは言語道断だと思います。失敗という暗黙知をいかに次に伝えるかがプロジェクトを成功に導くために重要なのではないでしょうか。
(開発の中で統合・環境試験で発生する不具合や不整合は行ってしまえば設計の失敗で、それを明らかにしていかに対処するかが開発です。ならばいかなる小さなプロジェクトの失敗に関しても組織全体で見れば同じことだと思います。)

技術継承をする側としてこのような心持ちが必要だと考えております。
だいぶ長々と書いてしまいましたが、技術継承に対する問題提起でした。アプローチやより詳細な考えについては次の機会に書かせて頂こうと思います。

※仕様とは
・SPROUT設計の要求、機能、物理
・SPROUTが実際の宇宙環境を想定して、どんな環境にさらして動作試験を行ってどうだったのか、その条件や結果の詳細
・SPROUTの統合・環境試験で発生した不整合や不具合に対する設計変更とその根拠
などです。