我々の研究室では，平成26年度末から，東工大・坂本啓准教授のリードの元，東工大・古谷研，小田研，(株)ウェルリサーチ，サカセ・アドテック(株)とともに，文科省・宇宙航空科学技術推進委託費による研究「革新的宇宙科学を切り拓く先進展開構造の研究・開発拠点形成」を実施しています．ORIGAMIプロジェクトと名付けられたこの研究では，次の3つの課題を実施します． 【課題1】 先進的宇宙展開構造物の宇宙実証スキームの開発 【課題2】 実験と数値解析の融合による宇宙展開構造物の設計・検証手法開発 【課題3】 世代を超えた知見継承を可能とする宇宙展開構造物研究・開発拠点の形成

このうちの課題2は，山�ｱがリーダーとなって，上記の参画機関との共同研究を取りまとめています．具体的には，実験から得られる知見と数値解析を用いて，異なるサイズや形状の展開構造物を設計・検証するための方法論を構築したいと考えており，実験室内での実験，航空機を用いた微小重力実験，そして，軌道上実験の3つと数値解析とを融合することで，世界に先駆け先進的な宇宙展開構造物の設計・検証手法を確立したいと考えています．そこで，航空機を用いた微小重力下での展開実験を予定しています．

航空機を一気に上昇させて，その後，降下させる際，放物線状に飛ぶと，微小重力状態を模擬できることが知られています．そこで， ダイアモンド・エア・サービス（DAS）社の小型の航空機MU-300を使って，航空機の中で，様々な展開構造物の展開実験を実施する予定です（DAS社ではGulfstream-IIという大型の航空機も利用することができますが，値段の関係で，MU-300を利用する予定です）．時期は未定ですが，2016年の1月頃に行う予定で，現在，準備を進めています．

1回の上昇・下降で約20秒間の微小重力実験が可能で，実験を1回のフライトで数回，行います．航空機の中は右図のような状況になっています．下図のように，ラックをうまく使って，実験装置を交換しながら，数回の実験をこなしていきたいと考えています（レイアウト等は，これからDAS社と調整予定ですので，だいぶ変わるかもしれません）．展開構造物としては，二次元自己展開トラス，三次元自己展開トラス，SPROUTのインフレータブル膜構造物と同等のもの，スピン展開膜，数kg級衛星用のデオービット膜構造物などを考えています．

一方，宮崎は，科研費による研究「大型ゴッサマー多体宇宙構造物の運動予測法の確立と運動の理解」を実施しており，この研究では，地上の真空・重力下での実験結果，大気中での微小重力実験結果と数値計算結果を用いた，膜面展開構造物の相似則を構築する予定です．そこで，上記のORIGAMIでの航空機実験のノウハウを利用し，別途，膜面のスピン展開実験，および，自己伸展トラス構造を用いた膜面展開実験を，航空機を用いた微小重力環境で実施する予定です．

大型膜面展開構造物を宇宙で実現しようとすると，そのネックとなるのは，軌道上での膜面構造物の挙動の予測です．特に，展開途中の運動の予測手法については，残念ながら未だに確立されているとはいえない状況です．その理由は主に次の2つに集約されます．

1. 地上で無重力・真空環境を模擬した実験が困難であること．特に，大型のものを実験することはほぼ不可能であること
2. 数値計算の信用度はまだ十分に高いわけではないこと

航空機を用いた微小重力実験は2016年1月から2月にかけて実施し，様々な成果を得ることができました．その概要については，「先進展開構造の研究」のページをご覧ください．以下の動画は実験の様子をまとめたものです．